朝方の霧は全ての輪郭をぼかしてくれた。
僕は部屋で霧に微睡んでいる。
窓を全快にして霧の空を眺めていると
ベランダから珍客の来訪があった。
姿かたちはトカゲのようだった。
爬虫類のことはよく知らないし
僕は向こうから関わってくる事さえなければ
基本的に爬虫類の存在を認めていない。
彼はベランダの窓から
一段あがった床に右手?前足をかけて
こちらともなく室内を見渡していた。
僕としては入ってこられては困るし
早く記憶から抹消したい画だったので
窓を閉めようとした。
けれど彼は何を勘違いしたのかそれではおじゃましますよといった具合にてくてくと部屋に入ってきた。
困った事になりました。
 
これ以上の進入を許す訳にはいかない。
ここは僕が賃料を払っている僕のスペースだぞと主張する彼とのコンタクトの方法を僕はもちあわせていないので行動で示すことにした。
なにかバリケードになるものはないかと
室内を探索すると、本と段ボールで
戦えるのではないかと思い彼の正面から
バリケードを積み上げていく。
恐怖を与えるように高く高く。
首をあげてあわあわと逃げ出してくれる画を
期待したが反応はなくそのうち出ていって
くれるだろうと少し放置する事にした。
目を離して何処にいったのか分からないでは
日々怯えることになるので積み上げた本の中から気になったものを手に取り読みふける。
 
彼は動かない。
 
ふと、彼の目線を想像して壁が迫ってきたら尻込みして逃げ出してはくれまいかと思い立つ。
映画のダンジョンのように。道は後ろに
しかありませんのでと示す。
僕の頭の中はもう彼の冒険胆。
お帰りの際には宝物を持って帰らなければ彼の面目も立つまいと、僕は彼の空想の中にいた。
 
お土産になにか持って帰られそうな
食べ物はないかと枝豆を見つけ、
鞘から豆を3つ出して彼の後ろに並べた。
霧が輪郭を薄くして僕と彼と枝豆をつなぐ。
さあ準備はできました。
そろそろお帰り願いますよとバリケードを
正面から彼に向かって押し出していくと
無反応だった彼がぺたぺたと身体の向きを変えた。
顔を向けた先のバリケードを更に押し出す。
僕は僕の性格の悪さを感じながら
彼の嫌がる事を率先してこなそうと動いた。
 
帰り道ににあった枝豆に躓いて、はいはい分かりましたよと彼は霧の中に消えた。
お土産を持って帰れば、これをみてくれよと彼の冒険胆に真実味が増し今日こんなことがあったのさと言う彼のトカゲ同士の会話みたいなものがあるんだとしたら面白いだろうにと想像した。
 
僕は何事もなかったように記憶と網戸を締め、
バリケードを解き、本の続きにふけった。
 
枝豆だけがトカゲを思わせた。
僕が枝豆を食べる事は当分ない。
 
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